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フィクションなのかノンフィクションなのか... 想いが織り成すストーリーの世界
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掲載作品の紹介
●空色...愛色...(現在掲載中)
●愛色の彼方 (現在掲載中)

両作品共に、主人公の名前は同じですがストーリとしては全く別物です。
それぞれの世界が織り成す淡く切ない物語をどうぞお楽しみください。
プロフィール
HN:
葵 膤璃
性別:
女性
自己紹介:
Aoi Tuyuri
恋愛体質
本物の愛を探し求めて彷徨い続けています
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タクシーは、ガーデンパークの前で停まる

そして私は重要な事に気が付いた
結婚式の教会からそのまま逃げるように乗り込んだタクシー・・・
財布を持っているはずが無かった

そんな私の状況を察したのか、運転手は私を見る

「・・・すみません・・・あの・・・」

「あはは、そうだよね。逃げ出した花嫁が財布を持っている訳がないか」

予想に反して、運転手は優しく笑う

「良いよ、今日は何やら特別な日みたいだから」

私は運転手の言葉にビックリする

「でも・・・」

いくらなんでも、この距離を走ってもらって何もしないって訳にはいかない
私は運転手からメモを借りると、携帯の番号と会社の番号を書いて渡した
運転手の名前とタクシー会社の連絡先を教えて貰うと、必ず後日支払う約束をして私はタクシーを降りた



私はガーデンパークの敷地内を噴水を目指して歩く

さすがに昼間の公園をウエディングドレスで歩くのは恥ずかしい・・・

「何かの撮影かな?」

擦れ違うカップルの会話が微かに聞こえ、私は顔を赤らめる・・・
まさか結婚式場から逃げ出してきたなんてドラマみたいな話を誰が想像するだろうか


暫く歩くと私の目の前に噴水が見えてきた

悟に逢えるのかと思うと気持ちが高鳴っていくのが自分でも解った

噴水の前に1人の男性の影が見える

悟・・・

私は高鳴る鼓動を抑えて一歩一歩進む


すると、気配を感じたのかその男性は振り向いた

透き通る様な白い肌に
サラサラの色素の薄い髪
スッとした顔立ちに、シャープなメガネ

どっから見ても、絵に描いた様なインテリ風の人だ

だけれども、メガネの奥の表情に悟の面影が重なる


その男性は私を見て少し驚いた様な表情を見せたが
すぐに状況を把握したかの様に微笑んだ

その微笑みを私の記憶は知っている・・・


「玲さん??」

その男性は私にそう尋ねた

「・・・はい」

私は戸惑いを見せる


「初めまして、僕は高木蓮と申します」

「れん・・・さん・・・?」

微笑みを消す事無く、その人は続ける

「僕は、高木悟の兄です」

蓮さんの言葉に私は驚く
お兄さんがいる事は、悟から聞いていたが一度も会う事がなかった
確か・・・何かを専門に医者をしていると悟が言っていた気がする


「あの・・・どうして・・・」

私は聞きたい事も上手く言葉にならない


「・・・今日は来てくれるのか少し不安でした・・・ここに呼んだのは一緒に行って欲しい所があるんです」

「行きたい所??」

「えぇ」


私と蓮さんは、敷地内の駐車場に停めてあった蓮さんの愛車に乗るとその『行きたい場所』へ向う


途中、突然蓮さんは車を停めた

「ちょっとその前に寄り道をしましょう」

そう言って、メインストリート沿いのショップへ入る

そこは女性専用のブティックだった

「あの・・・」

私は、蓮さんを見上げる


「その格好では、行動しづらいでしょう?僕の見立てで構いませんか?」

「あ・・・はい」

私は自分の格好を思い出して恥ずかしくなる
特に蓮さんは私に何かを尋ねたりはしてこなかった


私は蓮さんが選んだ服を試着する


それは、ふわりとしたソフトで可愛らしい真っ白なワンピースだった

「よく似合ってますよ。ではそれに決めましょう」


そう言って蓮さんは、会計を済ませウエディングドレスを入れた袋を受け取ってショップの外へ出る


「あ・・・あの!この洋服・・・」

私は慌てて後を追う


「それは、今日来て頂いたお礼にプレゼントします」

そう言って微笑む


そのまま私達は再び車に乗り込むと目的地を目指した

車内でも、蓮さんは無駄に話す事は無かった

そのまま言葉を交わす事なく、車はとある敷地内の駐車場に停まった


「・・・ここは病院?」

私は車から降りると、立派な建物を見上げた

「では、行きましょう」

そう言って、蓮さんは何も説明せず病院の中へ入って行く
私はその後を追いかけて病院へ入って行った



「あら、高木先生急患でも??」

暫くすると看護士の女性が声をかけてきた

「いや、今日は別件でね」

蓮さんはそう言って看護士と別れると、エレベーターに乗り込んだ


二人っきりの密室

相変わらず会話はない

私は思い切って話しかける

「あの・・・蓮さんはここのお医者様なんですか?」

「えぇ、ここでガン専門医として勤務しているんです」

「そうなんですか」

私達を乗せたエレベーターの扉が開く

「どうぞ、こちらです」

長い廊下を歩いて、突き当たりの扉を蓮さんは開いた

そこは広々とした綺麗に整理された真っ白い病室だった
太陽の光が反射して、目が眩むほど眩しい

私は目を細める

次第に目が慣れてくると、はっきりと病室内の様子が目に映る

白いベッドに白い椅子
白いカーテンが風に揺れる


「・・・ここは?」

私は不思議そうに蓮さんを見る

蓮さんは少し淋しげに微笑んで見せた



「ここは先月まで悟が使っていた部屋なんです」


蓮さんの言葉に耳を疑う

悟が使っていた部屋・・・???


「それは・・・どういう・・・」


私は蓮さんを見つめる


「・・・悟は・・・先月ここで息を引き取りました」



長い時間が経過した様に思える
重い沈黙が私達の間に流れていた


「息を引き取った・・・?」


私は白いベッドを見つめる

「えぇ・・・ガンだったんです。それも進行性の早い特殊なガンで・・・」


「・・・ガン?」


私は目を丸くして蓮さんを見る


「他の病院で診察を受けた時に、ガンが発覚したらしいです。そのカルテを持って悟は僕の所へ来ました」

蓮さんは窓から外を見つめながら、ポツリポツリと語り始めた

「悟は気丈でしたよ。余命を言い渡されているのに死を恐れていない様にさえ思えた」


― 兄さん、特殊なガンなんだろう?余命短くて1ヶ月、長く持って1年と宣告を受けたよ

― ・・・確かにそうだけれども・・・最善の治療を受けて進行を抑えて・・・そうすれば・・・

― 俺、大丈夫だよ。治療は兄さんに任せる。


「そう言って、悟は笑っていたよ」

蓮さんは、淋しげな表情を浮かべて視線を床に落とす

「・・・悟は・・・ガンだったんですか・・・」

私は目の前が真っ白になる


「若い分、進行も早い上にまだ医学でも解明出来てない特殊なガンだったんです・・・それでも悟は必死にガンと1年闘い続けました。ただ、悟は君の事をいつも気にかけていたよ。君からの手紙を何度も何度も読み返して・・・」

「え・・・」

私はハッと顔を上げると蓮さんを見つめた

「あいつ、いつも家族に心配かけない様にどんなに痛みがあっても泣き言を言わずに笑っていました。でも、君の事を話した時の悟の表情はとてつもなく悲しそうだったよ」


― 俺、大切なモノを捨ててきたんだ

― 大切なモノ??

― 俺・・・好きな子がいてさ・・・結婚も考えていたんだ

― 彼女?

― うん・・・本当に好きだった

― 彼女は知ってるのかよ??

― いや・・・言ってない

― え?

― あいつにはガンの事も俺が死ぬ事も言ってないし、これからも言うつもりはないよ
  だから、別れたんだ

― お前、好きなんだろ??

― あぁ、好きだからこそ引くべき時があるって俺は思ってるよ・・・
  気持ちは何ひとつ変わってない・・・でも・・・
  死ぬって解ってる奴の隣りにいる方がきっと苦しいと思うから
 
― ・・・手紙くらい書いてやれば?毎日送って来てるんだし・・・

― ・・・それも出来ない・・・今あいつに必要なのは俺を忘れる事だから・・・
  今、俺があいつの前に存在したらきっと前に進もうとしなくなる
  あいつには未来があるんだ・・・俺はそれを見守る事しか出来ないよ



私は、目頭が熱くなる
大粒の涙が止め処なく溢れてきた

「いつも・・・死ぬまで悟は君の事を気にかけていたんだ」

蓮さんは私に微笑みかける

悟は私を嫌いになったんじゃない・・・
悟の気持ちは変わってなかった・・・

なのに私、ずっと嫌われたって思ってた・・・
悟のそんな気持ち少しも汲み取れず・・・

時には悟を、恨んだ夜すらあった・・・


なのに・・・
なのに・・・

悟は自分が大変なのに、私の心配をしてくれていたの・・・

私は・・・何もしてあげられなかった・・・

自分の幸せばかり願ってた・・・・

悟・・・ごめんね・・・ごめんね・・・


私は、その場に泣き崩れる
床の冷たさが肌に伝わってきた

声にならずただ肩を震わせる


「これ・・・」

蓮さんは、ベッドの横の引き出しから何かを取り出して私に手渡した
私は歪む視界で、それを見つめる

それは、私が悟に宛てて書いた手紙の束だった

「あいつ、最後まで大切にしてたよ・・・きっとこれを読んであいつも苦しかったんだと思う。何もしてやれない自分が不甲斐なくて仕方なかったんだろうな・・・」


私はその手紙の束を受け取ると抱き締めた

あのクリスマスの秀君との出来事以来、私は悟へ手紙を書かなくなっていた
その最後の手紙までの全てが綺麗に保管されていた

「悟の写真集も見てくれたんだよね」

蓮さんは私の前にしゃがみ込んで嬉しそうな表情を浮かべた

「え・・・」

私は手紙から視線を蓮さんに戻す

「編集長の神谷って僕の同級生で、悟の状況を知って悟の夢だった写真集の話を持ちかけてくれたんだ。君から電話があったと教えてくれたんだよ」

「そうだったんですか・・・」

「神谷は言ってたよ、本当に真剣だったから悟の事を教えてやりたかったって・・・」

そう蓮さんは言うと優しく微笑んだ

蓮さんは「自由にここにいて構わないから」と一言告げ、私をひとり病室へ残して、出て行った


私は窓から見える空を見つめる

そして、悟が寝ていたベッドに私は横たわる
そこからも綺麗な青空が見えた

悟はここから毎日空を見ていたのかな・・・

私は真っ白いシーツをそっと撫でた

ここで悟は何を考えて、いつか来るであろう最後の日を待っていたのだろうか・・・
最後の日・・・悟は何を見つめていたのか・・・


「悟・・・」

私は悟がいる様な気がして名前を呼ぶ

「悟・・・悟・・・・ごめんね・・・」

私は声を上げて泣いた

最後の日、悟の傍にいられなかった自分を責めた
何も知らずにいた私・・・
悟がどんなに大きなモノを抱えていたのかなんて想像すら出来なかった

きっと、悟が一番辛かっただろう・・・
死を目の前にして怖くない人間なんていない・・・

そんな死と戦っていた悟・・・
それなのに・・・私は秀君と結婚をしようと決意していた・・・

そんな現実が皮肉に思える


言って欲しかった・・・
傍にいる決意を私にさせて欲しかった・・・

だけれども・・・悟の愛の深さが心に染みる

きっと逆の立場だったら私も同じ事をしていた

別れて約1年後・・・
私が知った真実はあまりに悲しいモノだった
もう取り戻せない・・・
もう触れられない・・・


どうしようも出来ない・・・




気が付くと、空は薄い群青色に染まっていた
私は何時間ここにいたのだろうか・・・

泣き疲れたせいか・・・瞼が重い・・・

私は、重い頭を起こして病室を出る

廊下の長椅子には本を読む蓮さんが座っていた

「あの・・・」

私は蓮さんに声をかける

「・・・今日はきっと悟も喜んでいるでしょうね」

蓮さんは本から視線を私に向け優しく微笑む

「息を引き取る最後の瞬間まで、悟は君の名前を呼び続けていましたから・・・」

私は静かに蓮さんの隣りに座る

「僕は・・・医者なのに弟に何もしてやれなかった。しかも自分が専門医をしているガンで弟を失うなんて皮肉ですよね・・・僕の弟は最後まで病気に負けませんでした・・・強い奴ですよ」

そう言って、蓮さんは小さく笑う

「・・・3ヶ月経ちますが、母は憔悴しきって入院してます。それに付きっ切りの父・・・家族に残った喪失感は大きい・・・でも、僕は・・・弟は幸せだったのではないかと思うんです」

「え・・・?」

私は静かに蓮さんを見る

「だって、生きていてそこまで人を愛せるなんてなかなか出来ないと思いますからね。そして君も弟をこうして愛し続けてくれていた」

蓮さんは私を見つめ返すと微笑えんだ

「そ・・・んな事ないです・・・・私・・・・悟を想い続けるのが辛くて逃げようとしてました・・・今日も・・・私・・・」

「・・・君はそれでも来てくれました。きっと悟にとってそれで十分だと思います・・・」

言葉を詰まらせる私を蓮さんは優しい空気で包んでくれた


「・・・これを君に」

暫くの沈黙の後、蓮さんは1通の封筒を私に差し出した

「これは?」

「悟が出せずにいた手紙です」


私はその手紙を受け取ると封筒から便箋を取り出す

そこには薬の副作用なのか、恐らく震える手で必死に書いたであろう痕跡が残っていた


『玲、頑張れ 俺も頑張る 
 幸せになれ 愛してるよこれからも・・・』


私は視界が歪むのを何度も手で拭う

私は愛されていたのだと、今改めて感じた
ずっとあの別れの日から今日まで・・・
私は悟に愛されていた






「今日は、もしかしたら僕が君の人生を狂わせてしまったかもしれない」

別れ際、タクシーに乗り込む私に蓮さんは複雑そうな表情を浮かべてそう告げた

「僕が手紙を書かなければ、君は悟が願っていた通りに幸せを選んだだろうに・・・」

そんな蓮さんに向って私は首を横に振る

「いいえ、私は感謝しています。蓮さんが手紙を出してくれなければ私は、自分に嘘をつく事に必死になっていたと思います」

そう言って私は微笑む

「ありがとう・・」

蓮さんはそう言って頭を下げた

「いいえ・・・私こそ・・・ありがとうございました」

私も蓮さんに頭を下げる

蓮さんは持っていたひとつのケースを私に手渡した

「これ・・・最後に弟の形見として受け取ってください」

そう言って差し出されたのは、悟が大切にしていたカメラだった

「でも・・・これは・・・」

私は蓮さんを見上げる

「これは僕だけじゃなく、両親の希望でもあるんです。きっと君が持っている方が悟も喜ぶと思うから」

そう言って蓮さんは小さく頷く様に微笑んだ
私はカメラを受け取りお礼を言うとタクシーに乗り込む

「今日、君に逢って弟が愛し抜いた女性だって事がよく解りました。どうか幸せになって」

蓮さんの言葉に私は黙って頷くと、タクシーのドアが閉められた

走り出すタクシー

私は窓から身を乗り出し、蓮さんの姿が見えなくなるまで手を振り続けた



私の知らなかった真実
悟が守ろうとしていた真実


私は蓮さんから貰った、悟へ宛てた手紙の束と悟の形見のカメラを握り締める


そして、私は自分が進むべき道を見据えていた

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