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フィクションなのかノンフィクションなのか... 想いが織り成すストーリーの世界
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掲載作品の紹介
●空色...愛色...(現在掲載中)
●愛色の彼方 (現在掲載中)

両作品共に、主人公の名前は同じですがストーリとしては全く別物です。
それぞれの世界が織り成す淡く切ない物語をどうぞお楽しみください。
プロフィール
HN:
葵 膤璃
性別:
女性
自己紹介:
Aoi Tuyuri
恋愛体質
本物の愛を探し求めて彷徨い続けています
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私は、自宅の近所でタクシーを降りると自宅に向って歩く

すると自宅の前の人影に気付いて足を止めた

そこには、両親と秀君が立っていたのだ

「玲!」

私に気が付いた秀君が私の名前を呼ぶ
私は、その場から動けずに立ち尽くしていた

すると、父が険しい表情を浮かべて私の前へ歩み寄る
そして、次の瞬間・・・
私の頬に鋭い痛みを感じた

「バカモン!!」

そして父は怒りに震える声で叫んだ

生まれて初めて父に叩かれた
いつも穏やかな父か血相を変えて怒っている
私は、言葉が出ずただ父を見つめていた

「お義父さん!!待ってください!玲にも何か理由があるんです!何もなくそういう事する人間じゃないですよ!」

秀君が慌てて私の前に立ちはだかった

「そうですよ!お父さん!玲、何かあったの?どうしたの??」

母も心配そうに駆けつけると私の肩を掴む

私はぼんやりと痛む頬を抑えて立ち尽くしていた
そして、少しずつ現実へ引き戻される

父が怒るのも無理がない
結婚式から逃げ出した娘に両親は情けない感情すら抱いているのだろう

秀君の両親にも合わせる顔がない・・・


「玲・・・何があったんだ?」

秀君は私を心配そうに覗き込む

「私・・・結婚式・・・」

「良いんだよ、結婚式なんてまたいつでも挙げられる・・・何かあったのか?」

秀君は私を見つめる

「そうよ、秀明さんのご両親になんと謝罪すれば良いのか・・・」

母は今にも泣きそうな声を出す

「玲、すぐに秀明君のご両親にお詫びを入れなさい。そして予定通り入籍を・・・」

「私・・・結婚出来ない」

父の言葉を遮って私は呟く

空気が凍りつく

秀君の表情が見る見る固くなる

「れ・・・い・・・?」

「ごめん・・・私・・・」

私は秀君を見上げる


「・・・玲!!お前は!」

父の表情が怒りで真っ赤に染まる

暫く私を見つめていた秀君は、何かを察した様に溜息をついた

「お義父さん、お義母さん・・・二人で今日は話し合っても良いでしょうか?」

秀君はそう父に告げると、父も「そうした方が良い」と怒りが治まらない様子ではあったものの了承をした

秀君は私の両親に頭を下げると私の手を取り歩き出す

そのまま通りまで出るとタクシーを拾って、乗り込んだ

「どこに行くの?」

私の質問には答えず運転手の耳元で行き先をどこか告げた


無言の車内

私は気まずさに押し潰されそうだった

行き交う車のライトに秀君の無表情な横顔が照らし出されている




どのくらい走ったのだろうか
タクシーが停まる

秀君は会計を済ませると私を連れてタクシーを降りた

「ここ・・・」

私は秀君を見る

「折角予約入れてたんだし、利用しないと無駄になるから」

そう言って私の手を引く

そこは、私達が新婚旅行へ出発する前日の夜に宿泊をする予定だったホテルだった


受付を済ませると、私と秀君はエレベーターに乗り込む


着いた部屋は、清潔感のある高級感が漂う空間だった
30階の部屋だけあって、外はの景色は綺麗な夜景が広がっている
そのひとつひとつが宝石の様に輝いていた


「何か飲む?」

秀君は私にドリンクのメニューを渡す

「秀君・・・私・・・」

「折角だからワインにでもしようか」

秀君はそう言って電話でフロントに注文する


暫くして、ワインが運ばれて来た

秀君はワイングラスに注ぐと、私に手渡した
そして、軽くグラスを合わせるとワインに口をつけた


「秀君・・・あのね・・・」

私は思い切って秀君に話を切り出そうとする



「・・・彼の病院へ行ったんだろ?」

秀君はそう言って私を見る

「え?」

私は驚いて秀君を見る

「何で・・・病院って知ってるの・・・??」

私の問いかけに秀君は視線を落とす
そして何も答えずガラス越しの夜景を見つめる


「・・・俺、知ってたんだ。彼の時間が残されていなかった事・・・彼が亡くなった事もお兄さんからの連絡で知ってた・・・」

秀君はまるで懺悔をするかの様にポツリと呟く


「イヴの日に玲が写真集を持っていただろう?あの出版社に俺の友達がいるんだ・・・だから、無理を言って彼の居場所を教えて貰った」


私は黙って秀君の話に耳を傾ける

「そしたら、彼は入院してた。彼のお兄さんに友人だと嘘をついて面会させて貰ったんだ」


そう言うと秀君は振り返って私を見る


「彼は・・・すぐに俺を見て悟っていたよ。一瞬複雑そうな表情を浮かべたけどすぐに微笑んで俺を受け入れてくれた」


― 初めまして

― ・・・初めまして、安藤と申します

― ・・・玲は元気ですか?

― はい・・・入院されていたんですね

― えぇ

― 玲には伝えてないんですか?

― ・・・安藤さん、この事は何があっても玲に伝えないと約束して頂けますか?

― え・・・

― 僕は死がそこまで迫っている人間です
  玲には、僕の事を思い出に変えて貰う必要がある・・・死ぬって知れば玲は僕の事を忘れられなくなるから・・・

― ・・・僕はあなたを昔も今もきっとこれからもライバルだと思い続けると思います

― 時々、玲から安藤さんの話を付き合っている頃に聞いてました
  あなたが玲に想いを寄せているのも薄々は気付いていましたよ
  だからこそ、僕はあなたに玲を託したい

― 僕にはあなたの考えが解らない・・・愛する女を他の男に委ねる・・・僕には綺麗事にしかとうてい思えないです

― ・・・そうかもしれませんね。勝手に決断して傷つけて・・・僕の自己満足かもしれない
  でも、これだけは言えます・・・僕は玲を愛している・・・例え傍にいられなくてもそ  れは何ひとつ変わらないでしょう・・・玲を愛する気持ちはこの先もあなたに負けるとは思っていません
  ただ、これからの長い時間・・・一緒に傍にいてやれるのは僕じゃない
  それをあなたは出来る・・・だからあなたに託したいのです

― 自分が報われなくても・・?


「・・・俺の問いかけには直接答えず微笑みながら彼は頷いたんだ・・・」

秀君の脳裏にはきっとその日の悟が蘇っているのだろう
秀君は少し悔しそうな表情を浮かべる

「俺・・・勝てないな・・・って正直思った・・・でも負けを認めるのも悔しかった」

秀君は唇を噛み締める

「・・・どうして言ってくれなかったの?」

私の問いかけに秀君は、視線を私に向けると小さく微笑む様に笑った

「言えなかったよ・・・いや言いたくなかった。言ったら確実に玲を失う事になるって解っていたから・・・俺はずるい男なんだって生まれて初めて自分の事をそう思ったよ。このまま玲が何も知らずにいてくれたら・・・そんな事を俺ずっと考えてたしそう願ってた・・・」

そう言って秀君は一気にワインを流し込んだ
暫く流れる沈黙
私は秀君から視線を逸らす事なく真っ直ぐ見つめていた

「・・・玲が戻ってきた時、すぐに彼の所へ行ったんだなって思った・・・真実を知ってしまったんだな・・・って」

空のグラスを見つめたまま秀君はまるで独り言の様に呟く

「・・・ごめん」

私は不思議と冷静だった
勿論秀君への懺悔の気持ちもある
悟への変わらない揺るぎの無い愛も感じていた

もう戻れない
無かった事には出来ない
いつまでも・・・秀君の優しさには甘えていられない

「・・・玲はどうしたいの?やっぱり俺と結婚出来ないって気持ちは固まってる?」

秀君の問いかけに私は静かに頷いた

秀君は暫く私を見つめていた
そして静かに私へ背を向ける

「・・・やっぱり神様はいるな・・・俺の犯した罪への報いだ・・・」

その一言に私はかける言葉が見つからなかった

静かに時だけが流れていく
私はただ静かに秀君の背中を見つめていた
微かに震えている秀君の肩・・・

そんな秀君を私は抱き締める事すら出来なかった

傷つけたのは私

秀君は何も悪くない
責められるのは私だ

秀君を愛せたらどんなに良かっただろう・・・
私達がこうして結ばれるには遅かったのかもしれない

悟と出逢った、あの日
もう既にシナリオは完成されていたのだと思う

私は悟を愛している
それは変わらない事実
秀君をそこまで私は愛せなかった

自分の居心地の良さばかり優先にさせて、私は何一つ秀君に与えられなかった

後悔が波の様に押し寄せてくる

だけれども、もうどうにもならない
時は戻せない
無かった事にもやはり出来ない・・・






私達はその夜
一睡もする事なく朝を迎えた

あれから一言も言葉を交わす事は無かった

私は寝室のベッドで眠れないまま夜を過ごし
秀君もソファーの上で同じ様に眠れないまま朝を迎えていた

部屋を後にし私達はタクシーに乗り込む

秀君は目を真っ赤に充血させていた

きっとこの人をこんなに悩ませて苦しませたのは私の甘えだったのだろう

私はどんな報いでも受けるつもりでいた
今日はそんな秀君の心を映しているのだろうか
朝からシトシトと雨が降り続けていた

雨音だけが車内に響く

私も秀君もただ、そんな窓越しの景色を黙って見つめていた



タクシーが私の自宅の前で止まる

私がタクシーから降りようとすると秀君に腕を引き止められた
振り向く私に、少し切なそうな表情を浮かべる秀君

だけど、穏やかな口調で私に言った

「ご両親へは俺から説明しておくよ、勿論俺の家族にも・・・」

「・・・うん・・・でも私からもちゃんと両方の両親に説明するつもりだよ」

私も秀君を真っ直ぐ見据えて一言伝えた


「・・・俺、玲にとって友達としては最高なんだよな?」

私の腕を握る秀君の手に微かに力が入る

「・・・ん・・・」

私は適切な言葉が見つからず・・・だけど秀君から視線を逸らす事なく頷いた

「最愛のパートナーにはなれなかったけど・・・俺、最高の親友にはなれるかな?」

秀君の言葉に一瞬涙腺が緩む

「・・・玲とはこれで終わりにしたくないんだ・・・友達でいられるなら・・・俺はそうでありたい・・・」

私は溢れそうな涙を堪えて頷く

「・・・良かった・・・ありがとう、玲」

秀君は少し疲れた表情を浮かべるものの優しく微笑んでくれた

「俺、いつでも玲の味方だから・・・今まで本当にありがとう」

そう秀君は告げると私から手を離した

「・・・ううん、私も秀君には感謝してる・・・楽しかったよ・・・秀君の事もちゃんと真剣だったよ・・・それだけは嘘じゃない」

私の言葉に秀君は力強く頷いた

「・・・ありがとう」

私はそう秀君に言い残しタクシーを降りる

そして傘もささずに、タクシーが見えなくなるのを見送った
最後まで、秀君は振り返って私を見つめていた
秀君の悲しそうな表情をきっと私は一生忘れる事はない
それがせめてもの償いだと私は感じていた


自宅へ帰ると、濡れた身体のまま座りこむ

すでに荷物が運び出された部屋は妙に広く静まり返っていた
本当にひとりになったのだと実感する


私は蓮さんから受け取ったケースからカメラを取り出して見つめる
悟の温もりが今も残っている様に思えた


私・・・間違ってないよね?
これで良かったんだよね・・・

私の問いかけにもう悟は答えてくれる事はない


この先の自分を見つめなければいけない

そう私は強く感じていた

悟の死は確実に私を導くべき場所へ導こうとしている・・・
そんな気がしてならなかった
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